2019年2月 3日 (日)

慕情 奥秩父の峪

田辺重治 氏 曰く 『秩父山隗は、偉大なる深林を有する点に於いて、人跡なき広大範囲を有する点に於いて、
 複雑なる支脈を有する点に於いて、それは確かに大山脈たる資格がある。
 秩父の真に誇るに足るべき特点は、山容そのものにあるのでなくて、深林と渓谷の美にある。』

 

 此処は奥武蔵。
舗装された道に点々と民家が在る。
その道に沿って川が流れている。
川と云っても、二間足らずの幅で水は少ない。流れの幅は一間程であろう。
行くと、山を割って小沢が流れ込んでいた。
小沢に沿って林道が通っているようだ。
林道に入ると、もう民家は無かった。
右手下の沢を見ると、水量は乏しいが、なかなかの渓相の様だ。
一抱え程の大石も見えるし、小さいながらも落ち込みも見える。
気になるのは、百㍍毎に沢を区切る堰堤が在ることと、周囲は良く枝打ちされた檜の植林山だ。

 

暫く行くと、大きな堰堤が在って、其の堰堤の上で沢は二俣に分かれている。
 もうこの辺りでいいだろう・・・。 堰堤の上に降り立つと、二俣共に一跨ぎの水量だ。
Blogkomagawatakahata1_2 車の音がする。振り返ると林道を上に上がって行くのが見えた。
小さな落ち込みの溜りを覗くと、五寸程の黒い影が石の下へと逃げ込む。
 きっと岩魚だな・・・ またも林道を車が走る音がする。
この世俗的な騒音から逃げるように、沢を遡る。
流れの傍は藪が覆っているが、山面は一面が檜の植林だ。
水の落ちる音がしてきた。
 滝があるのか・・・・ 曲がった先を見上げれば、堰堤であった。
堰堤を巻いて上に上がると、砂礫が堆積していて既に水の流れは無かった。
堆積した砂礫の中には、ブルーシートの切れ端や空き缶が混じっていた。
Blogkomagawatogi2

 

 もうよそう・・・。  此処は私が来る処ではない・・・、滅入るだけだ・・・。 其処には、これまで訪ね歩き身を委ねてきた様相とはかけ離れたものだった。
あの原生の中の奥秩父の谷々・・・、恐ろしい程の寂寥感と自然の営む息吹きの荘厳な尊大さ。
原生の黒森と岩峰を割って滔々と流れる谷川、蒼湛と嘆息する見上げるばかりの瀑布。
そして其処に健気に棲む赤い岩魚達が懐かしく思い出された。

 

こんな奥武蔵の沢巡りを、ここ数年は繰り返している。
そして、その度に幾度も失望している。
生き物が齢を重ねるということはやむ負えないことだが、恐ろしいことではある。
その体力と気力とを、確実に正確に少しづつ枯れさせる。
それが、老いというものだ。
  もはや、私の望む居所は何処にもないのか・・・。

 

また・・・林道を上る車の爆音が響いてきた、この林道の先には集落が在るのだろう。

 

 

 

 

 

 

| | コメント (0)