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2018年4月25日 (水)

追憶の谷 水晶谷 “覗き見れば・・・面蔵ノ滝”

平成六年の夏のこと

“今日も良い天気だ・・・” 見上げる雁坂嶺辺りの山肌は明るく陽があたっている。
此処は、古礼沢の出合いを過ぎたところの河原、深い谷底はまだ仄暗く流れは白く荒々しく駆け降りている。
昨日は、天狗岩トンネルから歩き杣道を辿って釣橋小屋から滝川へ降りて遡った。
ブドウ沢出合い下の難所を岩に縋っり抜けて、やっとのこと此処の古礼沢出合い上の河原に辿り着いたのだった。

まだ早い、“珈琲を沸かして飲もう・・・”枯れ木を集めてコッフェルに谷水を入れて火を焚いた。
立ち昇った白い煙は谷間に流れて行く。

熱い珈琲を啜っていると、カシャカシャと音がして腰の回りに用具をぶら下げた三人のパーティが遡って来た。
投げ出してあった釣り竿を見てか 『釣りですか?・・・』 と問う、『そうだね・・・』 と曖昧に答えた。
『先に行せてもらいます。なるべく静かに行きますから・・・』 と上流へと去って行った。
大学のサークルパーティだと言う、日に焼けて精悍な面々が印象的だ。
“少し間をとってから行こう・・・” 沸かした湯でラーメンを茹でて食べた。

“さて・・・と” 身支度して上流へと遡る。
暫くはゴーロが続くのだが、何と伏流する場もある。
三㍍ほどの小滝が次々と続く、釜に毛鉤を振ると赤い斑点の岩魚が咥える、魚影は濃いようだ。
両岸の岩壁が迫って峡間、中は五㍍ほどの滝が続く、峡間の出口には三段の十㍍越えの滝、なんとか抜け越えた。
滝上は、日差しが差して広く気持ちの良いゴーロが続くいている。
右岸から枝谷が入ると、またも十㍍を越える滝が立ち塞がり釜は大きく深い、毛鉤を振れば八寸の岩魚が竿をしぼった。
“これは困った・・・” 見れば途中にハーケンが打ってある、竿を納めてこれにザイルを掛けて何とか越えられた。
滝上は穏やか、だが水量は減って乏しく伏流もしているゴーロ。
雁坂トンネルの工事で水晶谷の水は半減したと聞いた。

落ち込みに幾度も毛鉤を振るが何にの音沙汰も無い、“もう棲んでいないのだな・・・” 先ほどの十㍍滝が滝川の魚止メであったらしい。

又も両岸が極端に狭まって十㍍ほどの滝、これは階段状で岩を掴んで踏み越えられた。Menzooblog_2

いよいよ両岸の高い岩壁は迫りすぼまって幅は二・三㍍しかない長い廊下。
奥に進むと何やら水音がする。
何と、廊下の行き詰まりには十五㍍ほどの直瀑、“これが噂に聞く面蔵ノ滝だナ・・・”
廊下の正面に細い水を高みから落している。 水の落ちる音の他は風の音すらもしない。
何ともうら寂しく幽閉な処なのだ。
濡れた岩に腰掛けると、つくづくと思った。   “何でこんな場所に、私は居るのだ・・・”
でも・・・この排他的ともいえる心細いばかりの寂寥感が、私は好きだ。
水の少ない岩肌に濡れた足跡らしきが乾ききらずにある、先ほどの三人も此処を覗いたのだろうか。
“もう どの辺りまで遡ったろう・・・” 幾らかの人臭さが気持を現世に呼び戻す。

奥秩父の入川と並ぶ雄、滝川の岩魚止メも確認することができた。
何より、独行で滝川を竿を携えて源流域にさしかかろうとする面蔵ノ滝まで遡れたことに満足だった。

少し下って、左岸のガレ沢をしゃにむに二時間程も登って、やっとのこと雁坂峠に続く黒岩登山道に出た。

  当時の遡行メモから。 雁坂トンネルは、この四・五年後に開通した。

Blogkuroiwa10_5  黒岩尾根から見た水晶谷の源流域、正面は水晶山(2158m)、 この下辺りに面蔵ノ滝がある。


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