荒沢谷 まだ幸せと云わねばなるまいて・・・
天候ヨシ 体調ヨシ 大洞川の支流、荒沢谷遊びを計画した。
目的は二つ「アララギ平で昼寝をする事」と念願の「井戸淵の深さを測定する事」である。
秩父市内のコンビ二で上生寿司の折り詰め一折と金麦ピール一缶を奮発して購入した。
五月晴れの空は雲一つ無く晴れわたり、紅(厚)顔にそよぐ風は火照る心を静めた。
刻は十時間も過ぎて・・・
午後五時 かなり疲れて足元ヒョロヒョロと鮫沢橋に辿り着いた。
膝に包帯を一生懸命に巻いているオジさんが独り居た。
大洞橋から惣小屋谷の出合いを釣り遡ったのだが途中で転んで怪我をしたのだそうだ。
オジさんと『ヒドイですね』などと傷口を見たりして座り込んで話をしていると・・・
ひ弱に見える若者が面妖な歩き方で尻をさすりさすりしながら戻ってきた。
『どうしたの・・・?』 聞けば
山道でキンチヂミを巻いて井戸沢へ行こうとしたが山ノ神の先で尻餅をついて尻が痛くて
井戸沢行きを諦めて帰って来たのだそうで『尾てい骨にダメージを受けた…』と云う。
思わずクスリと笑いそうになったのを堪えた。人は皆、他人の不幸は因業にも嬉しい。
幸薄かった三人で暫しの間、慰め合ったりしながら今日の出来事などを語り合った。
此のお二人に比べれば、私の場合は肉体的ダメージは無く精神的なそれも怠惰だ。
“アァ 俺は寝過ぎて井戸淵の深さ測定を諦めたけれど此の人達に比ぶるばまだ幸せで
あったのだナァ・・・”
密かに満足した。
この日の小さな不幸はこうであった。
雲取林道をルンルン気分で車を走らせ行くと鮫沢橋で交通止メ。
ゲートは頑丈な鉄製に造りになっていて既に5台の車が停め置かれてあった。
“アリャー 通行止めかい!”
荒沢橋まで一時間ほど林道を歩かねばならなかった。
桂谷を覗き、ベンガラの滝を眺め、岩魚達とも少し遊んだ。
そしてアララギ平(菅ノ平)に着いた。
周囲静寂、風はそよそよ、実に心地よい。
大木の根方に陣とってビールを飲み飲み寿司を喰った。
“サァ 昼寝の時間だ…” 直ぐにザックを枕に寝付いてしまった。

目が覚めた。
“エエ~ッ!? 2ジィ ウッソォ~” 二時間も寝てしまったのだった。
“するとするとォ 此処から荒沢橋まで戻るに2時間、林道を鮫沢橋まで1時間かァ”
寝すぎて体も重だるい。
“するとするとォ 遅くなってしまうじゃないか”
井戸淵の深さを測定することは・・・ 断念した。
帰りの荒沢橋から鮫沢橋までの遠いこと長いこと、幾度も立ち止まっては吐息をついた。
蛇足ながら、
青葉若葉の候の欲情の昂りは此れっポッチも無かった。 此れもまた小さな不幸の内ではあろうか。
※オジさんの情報によれば、鮫沢橋の通行止めの鉄扉は 『暫くは開けないらしいゾ…』 だそうだ。



























